山口県萩市 山口あぶトマト部会 下瀬 進さん

山口県萩市 山口あぶトマト部会 下瀬 進さん

山口あぶトマト部会とは、JAあぶらんど萩とJA山口中央という2つのトマト部会が平成17年に合併して出来たトマト産地です。かつては、県内トップのトマト産地の座を巡って競い合うライバル同士でした。しかし、お互いの生産者の平均年齢が70歳を越えるという高齢化に直面し、それぞれの産地にあった施設の維持が難しくなってきたそうです。そこで、ライバル同士という壁を越えて合併し、2つあった選果場を集約するなどして、業務の効率化に成功しました。2つのJAが1つの部会を形成しているというのは、全国でも珍しいケースです。
ちなみに、名前に付く「あぶ」とは、山口県を代表する農業地帯である「阿武」地区のことを指しています。

赤色が鮮やかな石州瓦の街並み

赤色が鮮やかな石州瓦の街並み

元JA職員のトマト部会長

部会長の下瀬さんは今年で64歳。トマト作りの経験は33年というベテランの生産者さんですが、もとはJAの職員さんという経歴を持っています。
「私がJA職員としてトマト部会を担当した当時は1.8haの規模の産地でした。10haの規模になれば国の指定産地になるからと、『3年で10haの規模にする』と、当時の組合長さんと約束をしたんですよ。」と下瀬さん。夜中にトマトの生産者の家々を回って、栽培面積を増やしてくれるようにお願いして回ったそうです。結果的に、2年で10haの規模を達成し、県内の有力トマト産地としての地位を築いたのです。
「以前は各農家がトマトの仕分、選別を庭先で行っていました。トマト栽培に使う支柱も、各農家が山から竹を200~300本切り出して作っていました。こうした作業はトマト農家にとっては大きな負担だったんですね。共同選果場を作って、こうした作業負担をJA側でカバーするから、生産者には作付面積を従来の2倍~3倍の規模にして出荷量を増やすようにとお願いをしたんですよ。」と下瀬さんは語ります。

JAの事務所に到着

JAの事務所に到着

産地確認を行うモス担当者

産地確認を行うモス担当者

エコファーマーへの取組み

山口あぶトマト部会では、エコファーマーに産地全体で取り組んでいます。エコファーマーとは、「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」に基づき、堆肥などを施して土地の力を高め、化学肥料、化学農薬を減らす生産計画を都道府県知事に提出し認定された農業者の事です。具体的には、山口県のトマトの慣行栽培基準と比べて、化学合成農薬、化成肥料(窒素成分)を県基準の3割減らした栽培を行うこと。栽培履歴のデータは、月1回提出すること。という事が義務付けられています。
土づくりの基本である堆肥は、畜産農家が多い地域という事もあり、原料には事欠きません。また、お米の産地でもあるので、その牛糞に、もみ殻、米ぬかを混ぜて良質な堆肥を作っています。
トマト部会の合併前に、JAあぶらんど萩では、既に全生産者がエコファーマーを取得していたそうです。JA山口中央との合併の際に、山口中央側のトマト部会にも、足並みを揃えてエコファーマーを取得して貰うようにと協議を行ったそうです。結果的に、産地全体が環境に優しい栽培を実践する形となったわけです。

山口あぶトマトの看板

山口あぶトマトの看板

収穫されたトマト

収穫されたトマト

病気、虫害への対処

減農薬栽培に取り組んでいる下瀬さん達には、農薬の使用回数制限がある為、病害虫に関する情報収集は非常に重要なポイントになります。
「夏場であるとか、湿気の多い梅雨時期など、どんな病気や虫が発生しやすいかは何となく解ります。栽培講習会など、生産者同士の会合が月2回はありますし、選果場で生産者仲間とも毎日のように会うので、病害虫の情報は常に情報交換をしていますよ。」と下瀬さん。心強いのは、農林事務所やJAによる専門家のサポートだそうです。
「微生物農薬など、雨天時でも散布出来て、環境にも優しい農薬が以前と比べて多く出てきています。早め早めの防除を行うことで、目に見えて大発生するような病気は殆ど無くなってきました。また、受粉用にマルハナバチを使用しているので、ハウス全体を防虫ネットで覆っています。これにより、害虫の侵入を防ぐ事も出来ています。」とJAの小野さんは言います。

トマト選果場の様子

トマト選果場の様子

出荷前のトマトを確認中

出荷前のトマトを確認中

萩市をPRしたトラックでトマトを出荷します

萩市をPRしたトラックでトマトを出荷します

女性が活躍する産地

山口あぶトマト部会の生産者のリストを見ると、女性の生産者が多い事に気付かされます。「もともと、ここは水稲栽培が中心の産地でしたからね。当地のトマト部会は、大きなハウスをドンと建てて大規模にトマトを作るというよりは、奥さん方の化粧品代が稼げれば…という程度で、小さな面積で始まったトマト産地だったんですよ。」と小野さんは言います。しかし最近は、トマトの売上がだんだんと大きくなってきて、農家の収入を支える基幹作物になっているそうです。トマト部会の全体会議でも、出席者の半分以上は女性との事です。

下瀬農場の様子

下瀬農場の様子

下瀬さんの奥様、治恵さん

下瀬さんの奥様、治恵さん

下瀬農場を訪問

下瀬さんのトマト農場に到着すると、奥様の治恵(はるみ)さんが出迎えてくれました。
現在作っている品種は「桃太郎サニー」という品種です。まずは、トマトの味を確認。酸味と甘みのバランスがよく、爽やかな味にOKサインを出すと、治恵さんも一安心の模様でした。
「このトマトは5月20日頃に植えたんですよ。今は11~12段目の収穫ですね。」と受け答えも完璧。まさに女性の力が引っ張るトマト産地であると実感しました。

トマトの食味を確認するモススタッフ

トマトの食味を確認するモススタッフ

ご自慢のトマトを手に下瀬夫妻のツーショット

ご自慢のトマトを手に下瀬夫妻のツーショット

最後に一言

「今まで4年もモスさんと取組んできたので、これからも末永く長く取り組んでいきたいですね。食味が良く、環境に優しい栽培を目指している、山口あぶトマト部会を今後とも宜しくお願いします!」
下瀬さん達の想いがつまったあぶトマトは、11月中旬頃まで、主に九州地方のモスバーガーに出荷されています。

JAの小野さん(左)、永安さん(右)と、下瀬さん(中央)

JAの小野さん(左)、永安さん(右)と、下瀬さん(中央)

Text by Sato